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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3547号 判決 1962年12月03日

判   決

原告

株式会社クローバー洋菓子店

右代表者代表取締役

田中スイ

原告

竹田宏子

右訴訟代理人弁護士

小幡良三

被告

遠藤静男

右当事者間の損害賠償請求事件について、つぎのとおり判決する。

主文

被告は原告株式会社クローバー洋菓子店に対し金一一万円、同竹田宏子に対し金五万円の支払をせよ。

原告等その余の請求はいづれもこれを棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告等の平等負担とする。

この判決は第一項に限り仮りに執行することができる。

事実

原告等は「被告は原告株式会社クローバー洋菓子店(以下、単に「被告会社」と略称)に対し金一八万五、七〇〇円、同竹田宏子に対し金二〇万円の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として

一、被告は昭和三七年四月二日午後五時半頃、佐津孝治所有の大型貨物自動車(第一ろ―一七二〇号)を運転して目黒方面から世田ケ谷方面に向け進行し、世田ケ谷区上馬町三丁目八八番地先交差点において、折柄、三軒茶屋方面から玉川方面に向つて進行し同交差点に入つた訴外井野元富弥運転の原告会社所有の普通乗用車(三せ五七二一号)の後部左側に衝突し、同自動車を大破させ、同乗していた原告竹田宏子に対し加療三週間を要する後頭部及び胸部打撲の傷害を負わせた(以下「本件事故」という)。

二、本件事故は、被告が前記交差点の自動交通信号が停止(赤色灯)の信号であつたにも拘らず、無謀にもこれを無視して同交差点に進出した過失により惹起せられたものであるから、被告は本件事故の直接加害者として民法第七〇九条にもとづき本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務を負わねばならない。

三、(一) 原告会社は前記乗用車を昭和三六年九月二八日金九万円で購入したうえ同年一二月一日及び同月二二日、金九万五、七〇〇円の費用を支出して改修し使用していたが、本件事故により大破せられ全く使用不能となり、右購入代金及び改修費用の合計額金一八万五、七〇〇円相当の損害を蒙つた。

(二) 原告竹田宏子は本件事故によつて前記傷害を蒙り失神し、直ちに世田ケ谷病院に入院し治療を受け、昭和三七年四月二三日退院しその後引き続いて同月末日までの間自宅において療養し、更に、湯治等を余儀なくせしめられたが、その後も約一カ月間は勤務先における通常の労働に堪えることができなかつた。そして、現在猶、頭痛、眩暉、胸痛等の後遺症に悩まされ、将来の生活、労働等について重大な支障があるものと予想せられる状態にある。なお、最近、腰部に疼痛を感じたのレントゲン検査を受けたところ、不完全骨折の受傷があつたことも判明した。同原告は、昭和三六年三月、世田ケ谷区東京栄養食料学校を卒業し、翌三七年三月以来株式会社日幸電気製作所に栄養士として勤務し、月収金一万一、〇〇〇円を得ている未婚女性であるが前記後遺症によつて結婚に影響があることも予想せられ不安を抱いている。以上諸般の事情を勘案して、同原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛を慰藉するには金二〇万円を以て相当とする。

四、よつて、被告に対し、原告会社は金一八万五、七〇〇円、同竹田宏子は金二〇万円の損害賠償を求めるため本訴に及んだ。

と陳述した。

被告は「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、請求原因第一項の事実は認める。

二、同第二乃至第四項の事実は否認する。

と陳述した。

(立証)≪省略≫

理由

一、請求原因第一項の事実は当事者間に争がなく、原本の存在及び成立に争のない甲第八号証並びに原告竹田宏子本人尋問の結果によれば、本件事故は、被告が本件事故現場たる交叉点において、自動交通信号機の停止(赤色灯)の信号を無視し、佐津孝治所有の大型貨物自動車を運転して同交叉点に進出した過失により惹起せられたものであることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

二、従つて、被告は本件事故の直接加害者として民法第七〇九条にもとづき本件事故によつて生じた損害を賠償すべき義務を負わねばならない。

三、そこで、本件事故による損害の点について検討するに、

(一)  証人田中幸一郎の証言によれば、原告と佐津孝治外一名との間において、本件事故について裁判上の和解が成立したが、佐津孝治の加入する保険会社によつて、原告所有の乗用車の本件事故当時の価格が金一二万五、〇〇〇円と査定されたところ、同乗用車がその後廃車として金五、〇〇〇円で他に売却処分されたので、これらの事実を基礎として前記和解条項が定められた事実を認定することができる。

右証人の証言によつて成立を認め得る甲第六号証の一乃至五によつて、右乗用車の購入代金及び改修費が原告の主張のとおりの額である事実を認定することができるが、右改修後本件事故当時まで相当期間経過している事実に鑑み、その間における使用程度に応じた価値の減少を考慮すべきは当然であるといわねばならないから、右購入代金及び改修費用の合計額を以て本件事故当時における右乗用車の価格とするのは失当であつて、前記認定を左右するものではない。又、右証人の証言中右乗用車の評価に関する供述部分は容易く措信するに足るものではない。

以上認定の事実によれば、原告会社は、本件事故によりその所有の乗用車を大破せしめられたため金一二万円相当の損害を蒙つたものと認められる。

(二)  原告竹田宏子本人尋問の結果及びこれによつて成立を認めうる甲第四五号証を総合すれば、同原告は、本件事故によつて、頭部打撲傷、左側頸部裂創、胸部打撲傷、右第四肋骨骨折の傷害を受け、世田ケ谷病院に入院し昭和三七年四月一一日までの間、治療を受け、その後、自宅において療養し、翌五月二日診断の結果、軽度の胸痛を残して他は治癒に至つたものと認められ、現在、天候の悪い日などに、頭部及び胸部に痛みを感じる状態に在るけれども、特にそのための治療を受ける必要まではない事実、又、同原告は、右傷害の治療のため、その勤務先である株式会社日幸電気製作所を同年五月三日まで欠勤したが、その後再び勤務し今日に至つている事実を認めることができ、以上の事実からすれば、同原告が本件事故により前記傷害を受けたため相当の精神的苦痛を蒙つたことは容易に推認でき、本件事故の態様その他諸般の事情をも斟酌すれば、同原告が本件事故によつて受けた精神的苦痛を慰藉するには金五万円を以て相当であると認められるが、その余は失当であると認められる。

四、よつて、原告等の本訴請求は、被告に対し、原告会社が金一二万円、同竹田宏子が金五万円の損害賠償を求める限度において正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条本文、第九三条第一項本文、仮執行の宣言について同法第一九六条の規定を各適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 高 瀬 秀 雄

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